第330回 「お母さんて誰?」~呼称~(4)

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日本語の二人称代名詞の代表格は「あなた」でしょう。「あなた」の使用について、“相手を指すことばとして「『あなた』を標準の形とする」”としたのは、昭和27年に国語審議会から発表された「これからの敬語」です。ただ、どうでしょうか。実際に私たちは「あなた」を標準の形として用いているでしょうか。

日本語学習者から「先生、あなたは夏休みにどこへいらっしゃいますか。」と言われたことがあります。この「あなた」の使い方はどうでしょうか。「これからの敬語」に従えば、問題のない使い方ですが、この場合は「あなた」は使えません。日本語のルールから外れた使い方です。

実は日本語の「あなた」は、英語の“you”のような感覚では使えないことばなのです。『異文化理解のための日本語教育Q&A』(文化庁国語課)には、「あなた」が用いられるのは次の場合だとしています。

(1)妻が夫を呼ぶとき

(2)目上の人が目下の人を呼ぶとき、ただし、日本語のルール上、余り一般的ではない。

(3)道でばったり会った目下の知り合いの名前をどうしても思い出せないとき、苦し紛れに使ってしまう。 

二人称代名詞が使えるのは、目下の人に対してであり、目上の人に対しては使わないのが普通です。目下の人であってもその人の名前を知っているのであれば、名前で呼ぶことが一般的です。

もともと「あなた」は、同等の人や目上の人に対して敬って呼ぶことばでした。しかし、徐々に敬意が薄れて現在の使い方になってきました。ですから、日本人の中には今の使い方とは違った感覚で使っている人もいるとの指摘があります。「あなた」についての感覚が日本人の中でもこのように違うとなると、「あなた」の使い方はますます難しくなってきます。

さて、“あなた”は自分自身を、また、他の人をどのように呼んでいるでしょうか。自分の言語生活を振り返ってみてください。

*「“あなた”は自分自身を~」の“あなた”は、アンケートや広告などでよく用いられており、不特定多数を指す用法です。(吉)

【参考文献】
『異文化理解のための日本語教育Q&A』文化庁文化部国語課 1994