他の人を呼ぶときにはどのようなことばを用いているでしょうか。
私自身(男、50歳代、日本語教師[教師養成も担当]、ある武道の指導員)のケースですが、以下のとおりです。
*○○=名前
両親に対して ← おとうさん・とうさん/おかあさん・かあさん
友だちに対して ← お前、○○(姓のみ)
同僚に対して ← ○○(姓)さん
上司に対して ← 理事長、社長(など役職名)
学生に対して ← ○○(姓)さん、○○(姓)君、君、あなた
武道の指導員として子供たちに対して
← ○○(姓のみ/名のみ)、
○○(姓)君[男の子の場合]、
○○(姓)さん[女の子の場合]
近所の子供に対して ← ○○(名)君、○○(名)ちゃん
息子に対して ← ○○(名のみ)/お前
他の人を呼ぶことばを「対称詞」といいますが、私の場合、どのような「対称詞」が用いられるか整理してみると、①「君、お前、あなた」という二人称代名詞、②「おとうさん・とうちゃん/おかあさん・かあさん」という親族名称、③「理事長」、「社長」という役職名、④「○○(名前のみ)、○○さん、○○ちゃん、○○君」というその人の名前という四種類(①②③④)の言葉が用いられることがわかります。ちなみに妻を呼ぶときは、「かあちゃん・○○(名のみ)」で②親族名称と④その人の名前を用いています。日本語の「対称詞」も「自称詞」と同様に数多くのことばがあります。
鈴木孝夫氏は『ことばと文化』(岩波新書)の中で、人を呼ぶときの日本語の規則性を支えているのは、「目上(上位者)と目下(下位者)の対立概念である」としています。私のケースを整理してみると、自分より目上(上位者)の人に対しては親族名称、役職名を使い、同等あるいは目下(下位者)の人に対しては二人称代名詞やその人の名前が用いられています。目上(上位者)・目下(下位者)の概念によってことばの使い分けられていることがわかります。
*目上の人を呼ぶときに適当な役職名などがない場は、「○○さん」になるでしょう。また、会社によっては上司を役職名ではなく、「○○さん」と呼ぶこともあります。(吉)
【参考文献】
『ことばと文化』鈴木孝夫 著 岩波新書 1973