第328回 「お母さんて誰?」~呼称~(2)

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日本語では自分自身を呼ぶときどのようなことばを使っているでしょうか。以下は、私自身(男、50歳代、日本語教師[教師養成も担当]、ある武道の指導員)のケースです。

両親の前では → ぼく・おれ 公の席では → わたし・わたくし

友だちの前では → おれ 自分の息子の前では → とうちゃん

同僚の前では → わたし 武道の指導員として子供たちの前では

上司の前では → わたし → 先生

学生の前では → わたし 近所の子供の前では → おじさん

自分を称する言葉を「自称詞」といいますが、私の場合、どのような「自称詞」が用いられるか整理してみると、①「ぼく、おれ、わたし、わたくし」という一人称代名詞、②「とうちゃん、おじさん」という親族名称、③「先生」という役職名・職業名という三種類(①②③)の言葉が用いられることがわかります。

自称詞には「おれ、ぼく、わたし、わたくし」という一人称代名詞があります。このほかも女性や落語家が使う「あたし」という言い方もあります。英語では“I”ですが、日本語では普段使われている一人称代名詞が多くあります。砕けた言い方、改まった言い方があり、相手や場面によって使い分けられています。

次に親族名称ですが、例えば父親に属することばには、「おとうさん、とうさん、おとうちゃん、とうちゃん、パパ」などがあり、いずれも自称詞として用いられます。 「先生」という役職名は、小学生の先生が自分自身を指す言葉として用いられます。この他にも子供の前では、自分自身のことを「運転手さん、おまわりさん、お医者さん」など仕事の役割で呼ぶこともあります。

親族名称と役職・仕事の役割に共通しているのは、どの呼び方も子供がその人を呼ぶときのことばだということです。つまり、子供が自分を呼ぶ言い方をそのまま用いて自称詞としているのです。

日本語の「自称詞」は、実に多くのことばが用いられていますね。

(吉)

【参考文献】
『ことばと文化』鈴木孝夫 著 岩波新書 1973