第327回 「お母さんて誰?」~呼称~(1)

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次の会話は、父と母とその子供二人(姉と弟)の会話です。

子供(弟):「ねえ、お母さん、北海道に行ったことある?」
母:「お姉ちゃんが生まれる前によくお父さんと旅行したわ。ねえ、お父さん。」
父:「そうだったなあ。お母さん、北海道が好きだったからね。」
母:「だって、食べ物もおいしいし、景色はきれいだし・・・」
子供(姉):「いいな。私も行きたいな。」
子供(弟):「ねえねえ、今度の夏休みに北海道へ行こうよ。お姉ちゃんは休み、取れるよね。」
子供(姉):「大丈夫。別に予定がないから。」

この会話に出てくる、下線部の「お姉ちゃん、お父さん、お母さんは誰ですか。」という質問が日本語学習者からありました。妻が、自分の父親ではなく夫を「お父さん」、夫が、自分の母親ではなく妻を「お母さん」、母親が、自分の姉ではなく娘を「お姉ちゃん」と呼んでいます。ですから、それぞれが誰を指しているのか日本語学習者がわからなくなるのもしかたないと思います。

鈴木孝夫氏は『ことばと文化』(岩波新書)の中でこのような人の呼び方のルールについて述べていますが、それによるとこれは「親族名称の子 供中心的な使い方」で、「相手を直接自分の立場から見ることをせず、年下の子供の立場を迂回して間接的に捉えようとする」ものだということです。つまり、一番下の子供から見た親族名称で呼んでいるのです。

ですから、この会話の「お父さん」「お母さん」も孫ができれば、「おじいちゃん」「おばあちゃん」になっていくのです。

ちなみに私の母親は「おばあちゃん」と呼ばれることにかなり長い間抵抗していましたが・・・。

(吉)

【参考文献】
『ことばと文化』鈴木孝夫 著 岩波新書 1973