「これは本です」の文型は「N1はN2です」(Nは名詞)です。この文型には、「うなぎ文」と呼ばれる次のような文があり、日本語においてよく用いられています。
(『日本語新版(下)』金田一春彦著 岩波新書 より)
ぼくはウナギだ。
食堂に入る。「何を召し上がりますか」と言われたときの言葉であるが、考えてみれば、 おかしい。ウナギのようにひげを生やした人が言うわけではない。
(中略)
・・・日本語では、長い語句の中心にある名詞をとりだしてそれで全語句を代表させる ことがあるのだ。
つまり、「ぼくはウナギだ」は、「ぼくはウナギを食べる」を短く言ったものであり、「ウナギを食べる」という語句の中心にある名詞「ウナギ」をとりだして、「ウナギを食べる」という全語句を代表させているというわけです。この文は『「ボクハ ウナギダ』の文法』(奥津敬一郎 著 くろしお出版)という本でも論じられ、「うなぎ文」という言い方が定着するようになりました。
ただ、この言い方は、文脈がないとどのような意味なのか(どのような語句を代表しているのか)がわかりません。
①ぼくは女です。(「子供は、男、女どっちがほしい?」「ぼくは女です(ぼくは女[の子供]]がほしいです)。」 )
②ぼくは沖縄だ。(「夏休みはどこへ行くの?」「ぼくは沖縄です(ぼくは沖縄へ行きます)。」)
「ぼくは女です」「ぼくは沖縄です」などといきなり言われたら驚くだけです。( )に示した問いかけがないとこれらの文の意味は理解できません。
でも、文脈から分かるのであれば、省エネでとても便利な言い方ですね。『「ボクハ ウナギダ』の文法』の著者で、私の恩師でもある奥津敬一郎先生によると英語、韓国語、中国語にも「うなぎ文」は存在するとのことです。それぞれの言語で「うなぎ文」を見つけ、その言語でどの程度用いられているのか、観察してみるとおもしろいと思います。