前回は指し示される対象によって、以下のように「これ」系列、「ここ」系列、「こちら(こっち)」系列が使い分けられるという話をしました。
ソ
ソ
ア
ド
事物
これ
それ
あれ
どれ
場所
ここ
そこ
あそこ
どこ
方向
こちら(こっち)
そちら(そっち)
あちら(あっち)
どちら(どっち)
今回は「こ」系列、「そ」系列、「あ」系列の使い分けについて述べます。次の例文を見てください。(*指示詞の用法には、文章・談話の中に出てきたものを指し示す用法もありますが、ここでは、指し示す対象が話している現場にある場合について取り上げます。)
(1)A:これは何ですか。
B:あ、これ? これは本ですよ。
(2)A:それは何ですか。
B:あ、これ? これは本ですよ。
(1)は「これ」に対して「これ」、(2)「それ」に対して「これ」が用いられていますが、(1)と(2)では用法が違います。
(1)はAとBが並んで一緒におり、私たち(AB)の近くにあるものを指して「これ」言います。「それ」と「あれ」ですが、「これ」の位置から少し離れたものを指して「それ」、遠く離れたものを指して「あれ」と言います。
(2)はAとBが向かい合っている場合です。私とあなたが相対し、それぞれ空間を二分しています。そして私の近くにあるものを「これ」、あなたの近くにあるものを「それ」と言います。
指し示す対象がものではなく、場所であれば「ここ」系列、方向であれば「こちら(こっち)」系列を用いればよく、「こ・そ・あ」の付くことばは、距離によって、あるいは、私とあなたの領域によって使い分けられるという点は同じです。
「どれ」は、(1)でも(2)でも指し示す対象が決まっていない場合に用います。
“This a pen.”の“this”は、英語の指示代名詞です。“this”は「これ・この」に当たりますが、「それ・あれ・その・あの」は“that(指示代名詞)”が担当しています。日本語では空間を三つ区切りますが、英語では二つに区切ります。外国語を学ぶときの難しさの一つは、このような区切り方の違いにあります。ただ、一方でこの違いは、物事の新たな捉え方との出会いですから、外国語を学ぶ楽しさでもあるでしょう。
(吉)