-日本語教育の現場で-
「標準語」は定められたものですが、「共通語」は現に通用している言葉というわけです。どちらも地域を越えて通じる言葉ですから、「共通語」の体系は「標準語」とあまり変わらないとも言えますし、更に「共通語」に体系はない(例えば、東京の人の話す「共通語」と、関西の人の話す「共通語」とはアクセントの違いや文末の母音の強さの違いがあっても通じればよい)とも言われます。規範の幅が広いんですね。
では、外国人にはどのような日本語を教えればいいのでしょうか。
例えば、大学などへの進学やビジネスのための日本語を教える日本語学校など専門の教育機関では、やはり「共通語」の中でも「標準語」を意識した日本語教育が必要でしょう。スピーチやプレゼンテーション、レポートや報告書などで求められる言葉です。
一方、地域の日本語教室などで生活会話を中心としたコミュニケーションとしての日本語を学ぶ人たちには、地域の風土や生活文化に合う「方言」や、生活場面でのあらたまった場や書き言葉として使う「共通語」が必要でしょう。
少子高齢化・労働人口の減少対策や海外への企業進出を背景として、またサブカルチャー(アニメや漫画など)をきっかけに、日本語を学ぶ外国人はもっと増えてくると思われます。
言葉は生まれ、移動し、消失し、また新たに生まれるダイナミズムをもっています。世代間で起きる変化(「ら抜きことば」や高低アクセントの変化「平板化」など)だけでなく、日本で生活する外国人に影響を受けて起きる変化もあるはずです。正しい日本語を一方的に教えるより、むしろ互いの文化や考え方を相互にやり取りする中で、言葉が変化したり、新しい日本語が生まれたりする自然発生的な「共通語」の展開が楽しみです。
(た)
<参考資料>
・「日本語教育講座3 言語学・日本事情」千駄ヶ谷日本語教育研究所2003
・「「ことば」シリーズ6 標準語と方言」文化庁1977
・「標準語 ことばの小径」田中章夫著 誠文堂新光社1991
・「江戸語・東京語・標準語」水原明人著 講談社現代新書1994
・「標準語の成立事情」真田信治著 PHP研究所1987
・「方言は気持ちを伝える」真田信治著 岩波ジュニア新書2007
・「変わる方言 動く標準語」井上史雄著 ちくま新書2007
・「どうなる日本のことば 方言と共通語のゆくえ」佐藤和之・米田正人編著 大修館書店1999