「袖振り合うも多生の縁」はよく耳にすることわざですが、「多生」の正しい意味を知って使っている人は実のところそれほど多くないのでは、と感じます。では、なぜそのような難しい言葉を含むことわざがこれほど広く使われてきたのでしょうか。理由を考えてみましょう。
一つには、このことわざの意味である「ちょっとした出来事も何かの縁があってのことだ」という考え方を日本人が大切にしてきたからではないでしょうか。「これも何かの縁だから」「不思議なご縁ですね」など、現代でも「縁」という言葉はよく使われていると思います。
もう一つには、「道で知らない人と袖が触れ合う」という日常の情景が非常に共感を持てるものだったからではないでしょうか。現代でもすれ違う時に袖と袖が触れ合うことはあると思いますが、着物(和服)を日常着としていた時代は、袖には通常たもとが付いていたため面積が広かったこと、また道幅が今より狭かったことなどを考えるに、「袖振り合う」機会が現代より多かったのではと想像されます。
現代では洋服に主役の座を奪われてしまった感のある着物ですが、着物にまつわる慣用句、ことわざはこの他にも数多くあります。着物もそれにまつわる言葉も、先人から受け継いだ私たちの財産として大切にしていきたいものです。(み)
<参考>
・『広辞苑 第四版』岩波書店
・着物から生まれた言葉