日本語を使う場所は限られている

日本語教師こぼれ話
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 「先生、宿題!」これは担当している初級クラスの学生が私に使った日本語です。この2単語を聞き、宿題を出したいと言いたいのだなぁと容易に推測することができますが、私の返事は「宿題が何ですか?」です。

 学生たちにとって日本語を使う場所は実は限られています。同国のルームメートと暮らしている学生が多く、日本に住んでいながらも家では母国語を使っています。アルバイトをせず、日本人の友達のいない学生にとっては、コンビニやスーパーでの買い物、レストランでの食事、そして日本語学校の教室が日本語を使う限られた場所です。学校では多くの語彙や文型を勉強していますが、頭では理解でき、テストでは合格点が取れても、なかなか使えない、話せない学生が多くいます。そんな学生たちに学校で日本語をたくさん使って練習してもらいたい、場面に合わせて表現の幅を広げてほしいと願い、心を鬼にして学生に接しています。

 「宿題が何ですか?」の私の返事に対して、無言で固まっている学生もいますが、ほとんどの学生は悩みながら自分の勉強してきた表現を使い、「宿題を出したいです。」「宿題を見てください。」「宿題を見てくれませんか。」というように気持ちを伝えようとしてくれます。

 他にも、教務室に入りたいのに入れずに、窓から覗いている学生も多くいます。そんなときは、ドアをノックし、「失礼します。○○先生、いらっしゃいますか。」というところから一緒に練習をします。初めは外で覗いていた学生もだんだんと慣れ、3ヶ月もすれば堂々と教務室に入ってきて、勉強した日本語を駆使し、自分の気持ちが伝えられるようになります。その姿を見るたびに私は小さくガッツポーズをしています。

 「学校で使えない日本語は、学校の外でも使えない。」日々そう学生たちに伝えています。(田中)