「何もございませんが、召し上がってください。」という表現は、文字通り解釈すると、非論理的な表現です。何もなければ食べることはできません。でも、テーブルの上には大変なご馳走が並んでいます。このような表現に途惑ってしまう外国人もいます。前回登場したアメリカ人は、何もないならレストランへ行けばいいと言っています。
この表現の意味については次のような説明があります。
文字どおり「(食べ物が)何もない」わけではなくて、「(あなたにとってごちそうといえるようなものは)何もない」という意味です。
(『異文化理解のための日本語教育Q&A』文化庁文化部国語課)
つまり、「何もない」は別のことばで言えば、「ご馳走ではないから気を遣わないで」という、話し手の、聞き手に対する気遣いの表現です。ご馳走することで相手に負担がかかるだろうから、それをやわらげようとする働きがあります。前回の「つまらないものですが」と同様の発想です。
ただ、最近は「つまらないものですが」よりも「○○さんがお好きだと聞きまして」や「○○の名産でとてもおいしかったので」など肯定的な表現を使って贈り物をするとも多くなってきました。また、「英語、お上手ですね。」などと褒められれば、素直に「ありがとうございます」と感謝する人も増えてきているようです。今後、謙遜表現も少なくなっていくのかもしれません。
(吉)