他の人に物をあげる時、「つまらないものですが」という表現を用いることがありますが、これも謙遜表現です。この表現について私の友人のアメリカ人は、どうしてつまらないものなんかを人にあげるのかと言っていました。
ある時、そのアメリカ人が青森に旅行に行ったと言って、お土産をくれました。そのお土産は、東北方言が書かれている手ぬぐいでした。私が日本語教師をしているので、ことばに関連のあるお土産を選んだのでしょう。そして、次のように言い、私にお土産をくれました。
「これ、すごいでしょ。とてもいいものです。○○さんのために買ってきました。」
(*○○さん=筆者)
贈られる物は同じであっても「つまらないもの」となるか「とてもいいもの」となるかは、文化によって異なります。
金田一春彦氏は日本人の贈答について次のように述べています。
(日本人は)「これをあなたにあげたなら、あなたはお返ししなければならないと思うだろう」と思うのである。それをやわらげるためには、他人に物を贈る場合に日本人らしいあいさつが生まれる。(『日本語 新版 上』金田一春彦 岩波新書)
この日本人らしいあいさつが「つまらないものですが」という表現です。つまり、これは物をあげる相手への気遣いを表わしているのです。
でも、「つまらないもの」でも「とてもいいもの」でも、相手のことを思う表現であることには変わりがありません。
(吉)