ことばの教育では、文から型を抽出し、文型(パターン)として学ばせるという方法があります。「これは本です」の文型は「N1はN2です」(Nは名詞)です。
この文型で用いられている「N1は」の「は」ですが、「が」とどう違うのかという質問が日本語学習者からよくあります。では、「は」と「が」はどう違うのでしょうか。
実は、この違いを説明することはなかなか難しく、日本語教育では「は」と「が」だけで一冊の学習用の本があるくらいです。今回は「N1はN2です」と「N1がN2です」を比較することで、「は」と「が」の違いの一面を見てみましょう。
(1)これは本です。
(2)これが本です。
まず(1)(2)が答えになる疑問文をそれぞれ考えてみます。疑問文は次のようになるでしょう。
(1′)それ(これ)は何ですか。
(2′)本はどれですか。/どれが本ですか。
疑問文においては、「何」「どれ」に該当する情報が聞きたい情報です。その聞きたい情報が(1)(2)のどこに来ているかを見てみると、下線部の部分です。
(1)これは本です。
(2)これは本です。
ですから、(1′)(2′)の答えは、それぞれ、「本」、「これ」と言っただけでも成り立ちます。つまり、(1)は「N1はN2(伝えたい重要な情報)です」となっており、「これ」に該当するのは、「ペン」でも「鉛筆」でも「机」でも「ノート」でもなく「本」だと言っているのです。(2)は「N1(伝えたい重要な情報)がN2です」となっており、「本」に該当するのは、「それ」でも「あれ」でもなく「これ」だと言っているのです。
(1′)(2′)の疑問文における「何」「どれ」などの疑問詞の位置も違っています。「Nは疑問詞ですか」、「疑問詞がNですか」となっています。疑問文における疑問詞の位置の違いも、伝えたい重要な情報は何なのかという点から理解できると思います。
このように「は」と「が」が違うだけで、文の意味もずいぶん違ってくるのです。(吉)
【参 考】(以下は、日本語学習者のための自習用の本です。)
『は と が』日本語文法セルフマスターシリーズ1 野田尚史 くろしお出版