第315回 「これは本です」の言語教育小論(4)

日本語の美しさ
  1. ホーム
  2. 日本語の美しさ
  3. 第315回 「これは本です」の言語教育小論(4)

今回から「これは本です」を文法的な面から見ていきます。まずは、「これ」を取り上げます。

では、「これ」はどのようなときに使うことばでしょうか。

このシリーズの②③で日本語教科書の本文を紹介しましたが、そこには「これ」のほかに、「それ・あれ」が取り上げられています。これに「どれ」が加わり、語形の似たことばのグループ(「これ・それ・あれ・どれ」)を作っています。違いはことばの頭に付く「こ・そ・あ・ど」ですが、ことばの頭に「こ・そ・あ・ど」が付き、形の似たもののグループは他にもあり、以下のように整理することがきます(以下の例は主なもの)。





これ
それ
あれ
どれ
ここ
そこ
あそこ
どこ
こちら(こっち)
そちら(そっち)
あちら(あっち)
どちら(どっち)

「これ」の用法を考える場合、「これ」を単独で考えるのではなく、このような全体(こそあど言葉といいます)の中で使い方を考えていくとわかりやすくなります。

では、ことばの頭に「こ・そ・あ・ど」の付くことばの特徴は何でしょうか。これらのことばは一般に「指示代名詞」という分類名称がついています。また、「この・その・あの・どの」、「こんな・そんな・あんな・どんな」なども含めて「指示詞」と呼ぶこともあります。いずれにしても「指示」の名のとおり「指し示す」という働きを持つことがその特徴です。

次に「これ」系列、「ここ」系列、「こちら(こっち)」系列の違いは何のためにあるのでしょうか。これは指し示される対象によって使い分けがなされます。「これ」系列は「事物」、「ここ」系列は「場所」、「こちら(こっち)」系列は「方向」を指し示すのが基本的な用法です。「これ/ここ/こっちに座ってて。」では、それぞれ意味が違ってきませんか。「これ」だと椅子などのもの、「ここ」だと場所、「こっち」だと方向という意味合いが感じ取れると思います。

つまり、「これは本です。」の「これ」は、指し示された対象が「事物」(ここでは「もの」)だということを示しているのです。

次回は「こ」系列、「そ」系列、「あ」系列の使い分けについて述べます。

(吉)